天ぷらの起源と美味しさとリスクを考える。対策はノーオイルフライヤか。

はじめに

職場のある虎ノ門と自宅の近くにそれぞれ気になる天ぷら屋さんがあった。なかなかどちらも行けなかったけど、連休の間の5月2日とお休みの5月3日にそれぞれの天ぷらを堪能した。今日はそんな天ぷらの起源や美味しい天ぷら、天ぷらのリスクなどを考えてみたい。

地元の天麩羅屋さんでランチ

虎ノ門の職場には、天ぷら逢坂博多天ぷら丸和がある。残念ながらコロナ禍に伴って逢坂はランチをやめてしまっている。丸和も人気店だけで連休の間でかつ11時オープンの少し後に訪れたので、すぐに入れた。ラッキー。ここは博多天ぷらと名乗っているだけあり、お刺身とのセットなどが美味しいし、博多明太子がツボに入っていて食べ放題なのも魅力だ。一方、近所の天ぷら天穹には何度か足を運んだけど、お休みだったり、満員だったりして縁がなかった。昨日は、自宅を出るのが11時25分ごろでちょうどお店の横を通ったのが開店の少し後だった。覗いてみると営業しているし、カウンターも少し空いていた。これは入るしかないと決心した。ランチは天丼が1,500円で天ぷら定食が2,000円だった。カウンターには一人の客、ペアの客などがすでに注文して、できるのを待っている感じだった。自分は、思い切って天ぷら定食にした。それが下の写真だ。これにアナゴの天ぷらがつく。天つゆは自分で好きなだけとり、それ以外に塩とカレー粉がある。板前さんに聞くとアナゴはカラー粉で食べてみるのを勧められた。まだ、若そうな板前さんと若い綺麗な2人の女性がお店を手伝っていた。夫婦かなあ。バイトかな。和気藹々とした雰囲気で一人で入っても楽しい。お吸い物はしじみ汁で良い出汁が出ている。季節の菜ものと、お新香がついている。天ぷらはエビを中心に旬菜数種、魚介二種の天ぷらがどれもサクサクしていて本当に美味しい。また、体重が最近リバウンド気味なので、食事の量を制限していたけど、あまりに美味しいのでご飯もおかわりをしてしまった。

天ぷらの起源

ペルシア王が好んだシクバージとは?

天ぷらを日本に持ち込んだのはポルトガルの宣教師とされるが、天ぷらの起源はポルトガルではない。ダン・ジェラフスキー著の「ペルシア王は天ぷらがお好き?」によると、天ぷらの物語は6世紀中頃のペルシアに始まるという。ホスロー1世アヌーシールワーン(501~579年)は、ササン朝ペルシア帝国のシャーハーンシャー(王の王)で、シクバージと呼ばれる牛肉の煮込み料理が好物だった。魚のシクバージのレシピはペルシャから地中海を伝って西に伝わり、1500年代初めのスペインとポルトガルには、揚げた魚に酢をかけて食べる料理ぺスカド・フリートがあった。ポルトガル料理のレシピが日本に伝わり、南蛮料理書には、衣をつけて揚げた魚のレシピが載っていた。ポルトガルに出張した時に、サンマの塩焼きを注文したことがある。サンマが十匹、大きな皿にピラミッドのように積まれていて、オリーブ油で味付けされていた。美味しいので全部食べたけど、大根おろしと醤油が欲しいと心から思った。

(出典:FOOD CULTURE

天ぷらの輸入

天プラを日本に初めて紹介したのはポルトガルのイエズス会のイベリア人の宣教師で、1549年頃とされる。徳川家康は特にこよなく愛したようだ。当時の天ぷらは小麦粉と卵の衣をつけてラードで揚げたもので、つけ汁につけずにそのまま食べた。この料理は、カトリック教徒が四半期ごとの琥珀の日の断食の規則を満たすための食事だった。琥珀の日は英語では「ember days」と言い、スペイン語ではTémporasという。これはラテン語のTemporaが語源だ。これはなんという料理かと聞かれ、temporaの時期に食するものと説明したのに、Temporaがその料理名と勘違いして伝わったようだ。なお、英語では一時的という意味の用語にtemporal とtemporaryがあり、temporalは永遠のを意味するeternalに対する一時的なので長くは続かないというニュアンスがある。一方の、temporaryは常時を意味するpermanetに対する一時的なので、臨時のとか、その場限りの一時的という意味になる。ともに、ラテン語「tempora」を語源とするようだ。これを含め色々と諸説あるようだ。
・ポルトガル語の「テンポーラ」(カトリックの季節行事で食べられたもの)これが前述の琥珀の日説。
・ポルトガル語では調味料を意味する言葉に「tempêro」があり、これが天ぷらの語源という説
ポルトガル語の「テンペラート」(油を溶くという意味。テンペラ画に同じ語源)
・ポルトガル語の「テンペロ」(料理するという意味)
・スペイン語の「テンプロ」(寺院を意味する)

(出典:REPORTER

琥珀の日

天ぷらの語源は、スペインやポルトガルの宣教師が四旬節や琥珀の日(ad tempora quadragesimae)、金曜日などキリスト教の聖日を指して使った「時」「期間」という意味のラテン語「tempora」であるというのは先に記述した通りだ。琥珀の日とは、一年を通して犠牲と霊的成長のための追加的な機会であり、春夏秋冬の季節に1回ずつある。琥珀の日は、水曜日、金曜日、土曜日に行われる。2021年であれば、灰の水曜日(Ash Wednesday、2月24日、26日、27日)、聖霊降臨祭(after Pentecost、5月26日、28日、29日)、聖十字架昇架祭(Exaltation of the Holy Cross、9月15日、17日、18日)、聖ルーシーの祝日(the Feast of St. Lucy、12月15日、17日、18日)の後に行われた。琥珀の日という言葉は、ラテン語の4回を意味する「Quatuor Tempora」に由来しています。琥珀の日は、教会で古くから行われている習慣で、受け取った祝福を神に感謝し、これからの季節にさらなる祝福を求めるために行われる。また、自然の恵みに感謝し、その恵みを節度を持って使うことを教えてくれるものでもある。どうも日本的な感じがする。

(出典:Mount Carmel

天麩羅の進化

奈良・平安時代

奈良・平安の時代の8世紀から9世の頃には日本には唐菓子が伝わったとされる。この唐菓子は米粉を練って揚げただけのものだけど、平安貴族はこの唐菓子が好きだったようだ。

鎌倉時代

鎌倉時代(1180〜1336年)には、まだ油を精製する技術が発達していなかったが、精進料理としての揚げ物が伝来している。江戸の天ぷらと違って、野菜などの植物性の材料を揚げたものだったようだ。

テンフラリ

室町時代(1336〜1568年)の後期には南蛮料理のなかに「テンフラリ」という天ぷらの原型のような料理が現れた。1669年(寛文9)刊,京の医師奥村久正による食道記にてんふらりの名で記載されている。小鳥たたきて,かまくらえび,くるみ,葛たまりと記されている。てんぷらという呼び名は江戸時代の文献に初めて登場する。徳川家康は鯛の天ぷらにあたって死んだとされるが、家康が食べたものは当時、京都大阪で「つけ揚げ」と呼ばれていた食べ物で、海老、貝柱、穴子、コハダなど、魚介類を揚げたものを天ぷらと呼ぶとは前述の通りだ。一方、京都や大阪では魚のすり身を,わんのふたなどで腰高まんじゅうの形にこしらえ,これを素揚げにしたもの薩摩揚げのようなものをてんぷらと呼んだ。一方、江戸では魚介類の衣揚げをてんぷらと呼んだ。

江戸の屋台文化

江戸の街頭に初めて天麩羅屋の屋台が出始めたのは1785年(天明5年)の頃という。天ぷらは煙や匂いが出るし、火事の原因にもなりかねないので、屋台の方が便利だったようだ。江戸の人にとっては、寿司や蕎麦と並んで天ぷらもファーストフードの人気店だった。店舗を構えた天ぷら屋ができたのは1848年から1854年の嘉永の時代だ。江戸時代後期の風俗などを説明した守貞謾稿(もりさだまんかう)によると、あなごや、芝えび、こはだ、貝の柱、するめなどとある。当時の寿司は魚介類と限らなかったけど、当時の天ぷらは魚介類を対象にした呼び名だ。このため、魚介類以外の野菜類、例えばなすや芋や蓮根などを揚げたものは天ぷらと呼ばずに単に揚げものと言った。なお、衣は小麦粉(うどん粉)を水で溶いて、ごま油で揚げていた。屋台のてんぷら屋は立ち食いに便利なようにてんぷらは串刺しで、共通のつけ汁に串刺しのてんぷらを突っ込んでから食べていたようだ。

(出典:江戸食文化紀行

サクサク感を高める

小麦粉を混ぜすぎない

氷水、卵、軟質小麦粉を衣としてカラッと揚げてサクサクと食したい。重曹やベーキングパウダーを加えて軽くすることもあるようだ。天ぷらの衣は伝統的に箸で数秒間だけ少量ずつ混ぜるため、ダマが残り、衣の温度が低いため、調理したときに天ぷら独特のふわふわとしたサクサクした構造になる。衣を混ぜすぎると、小麦のグルテンが活性化し、揚げたときに小麦粉が柔らかくなり、生地のようになるので、混ぜすぎないことだ。また、天ぷらの衣にはパン粉を使用しない。パン粉を付けて揚げるとフライとなり、別の料理となる。

サクサク感を高める

天ぷらをサクサクに上げるには、衣を氷を入れて冷やしたり、氷を入れた大きめのボウルの中に入れたりして冷やすことが多い。また、水の代わりに炭酸水を使う方法がある。天ぷらがサクサクになるのは衣に炭酸水を入れることで、揚げ油のなかで衣の中の二酸化炭素が蒸発して衣がカリッと仕上がる。衣の表面だけではなく、中心の方かもらも火を通すことでサクッと仕上がる。ただし、炭酸があまりに強いものを使うと、揚げる際に油が跳ねて危険なので炭酸が少し弱くなったような炭酸水でトライしたい。また、卵の代わりにマヨネーズを使うと、衣の中の水分がうまく蒸発してサクサクになるという話もある。

アイスクリームの天麩羅

家庭で作れるアイスの天麩羅

アイスクリームの天ぷらと初めて聞いた時は驚いた。溶けてしまわないかと心配した。しかし、調理法を確認すると、アイスをしっかりと1-2時間で凍らせて、更にカステラの生地などで隙間なく包んで1-2時間凍らせて、カンカンに凍ったアイスの塊に衣をつけて、190度ほどの高温で30秒ほどで揚げる。昨日、一昨日と連続して頂いた天ぷらはどれも美味しかったけど、ちょっと物足りなかったのはやはりデザートがなかったせいかもしれない。アイスの天ぷらがデザートに出れば、若い女性は泣いて喜ぶと思う。

(出典:YouTube

お店で味わうアイスの天ぷら

アイスの天ぷらをいただけるお店を探してみたら、土手の伊勢谷などいくつか見つかった。そのうちの一つは有名な天ぷらのつな八だった。天ぷらつな八は創業大正13年の老舗天ぷら専門店で、こちらで出されているアイスの天ぷらが下の写真だ。色合いが少し異なるが、やはりカステラのようなものでアイスを包んで揚げているようだ。
(出典:Daily Portal

揚げ物の健康リスク

徳川家康ではないが、天ぷらが美味しいとこればかりを食べても健康を損なうかもしれない。どんなリスクがあるのだろう。

糖尿病

唐揚げ、トンカツ、ポテトチップスなど揚げ物は数多くある。コンビニやファーストフードの普及や食の欧米化に伴って揚げ物を食べることも増えている。会社員715人(21~66歳)を調べた研究によると、日本人は揚げ物料理を週に3~4回食べているという(参考)。揚げ物の食べ過ぎは2型糖尿病や心血管疾患のリスクが高くなるリスクがある。揚げ物は調理法としては、衣に吸われる油の量が多く、高カロリーになりやすい。脂肪は体にとって必要な栄養素だが、脂は少量でもカロリーが多いので、肥満や2型糖尿病、動脈硬化などになるリスクを意識して、食事では油脂の摂り過ぎには注意したい。

メイラード反応

メイラード反応(Maillard reaction)とは、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質のアミノ化合物と還元糖を加熱したときに見られる褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のことだ。褐変反応(browning reaction)とも呼ばれる。アミノカルボニル反応の一種であり、褐色物質を生成する代表的な非酵素的反応である。メイラード反応という呼称はフランスの科学者ルイ=カミーユ・マヤール(1878~1936年) が発見したためにマヤールの英語読みしたメイラード反応とされた。食品工業において、食品の加工や貯蔵の際に生じる製品の着色、香気成分の生成、抗酸化性成分の生成などに関わる反応である。メイラード反応の過程でアスパラギンとブドウ糖が反応することによって、劇物扱いのアクリルアミドが生成される。アクリルアミドは神経毒性や発癌性を持つ疑いがある化合物である。
(出典(左):Chemistry Learner、出典(右):メイラード反応

アクリルアミド

アクリルアミドとは、糖とたんぱく質の中のアスパラギンと呼ばれるアミノ酸が、加熱されたときに生成する物質だ。世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、アクリルアミドをヒトに対しておそらく発がん性があると分類されている化合物であると指摘している。2005年には、国際連合食糧農業機関(FAO)とWHOの合同委員会が食品中のアクリルアミドは健康に害を与える恐れがあり、含有量を減らすべきと勧告した。下の図は、日常的に摂取している食品中のアクリルアミドを表している。特に多いのがポテトチップスやフライドポテトだ。美味しいけど日常的な食べ過ぎには注意したい。マクドナルドがポテトの販売をSサイズのみに限定したけど、これももしかすると関係があるのだろうか。

(出典:UCC

リスクへの対応

この4月から朝の連続ドラマ「ちむどんどん」を楽しく拝見しているが、その中でハンバーガーの突き合わせにフライドポテトを思いついて、売り出すシーンが登場するが、ちょっと違和感を感じる。フライドポテトは油を食べているようなものだ。油を摂取すると幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌される。たまに食べるとか、少しずつ食べるなら問題ないけど、常習性があるので、毎日大量に食べるのは避けたい。コーヒー豆は比較的アクリルアミドの含有量が少なく、コーヒー飲用はがん発症のリスクを上げず、肝臓がんの発症リスクを下げる効果もあるようだけど、毎日何杯も飲むようなら注意が必要だ。

ノーオイルフライヤー

油を使わずに揚げ物ができると人気なのが、ノーオイルフライヤーだ。これは、高温の空気を高速で循環させることにより、食材中の油と水分で揚げ物を調理するものだ。2010年にフィリップスが開発し、エアフライヤー(Airfryer)として発表したのが最初の製品だ。器具の上部にあるヒーターで空気を80度-200度に熱して食品に吹き付ける。底部はヒトデのような形状に加工されていて、熱風を高速で循環させることで食品を油で揚げているのと同様の状態を作り出す。その後、各社が油を使わずに熱風で揚げ物の調理を行う器具が次々と発売されている。ただし、食材によっては少量の油を加える必要があることから過剰広告の指摘も一部されている。

 

まとめ

天ぷら、トンカツ、唐揚げにフライと揚げ物は美味しい。日持ちするのも魅力だ。しかし、油の状態が悪いと味が落ちるだけではなく、健康にも影響を及ぼしかねない。何事も腹八分目で適切な運動と適切な睡眠をとることが大事だ。連休も今日で折り返しだ。明日は取り寄せしていた図書も届いているようなので、東大の総合図書館に行って本に囲まれたい。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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