サーキュラーエコノミー(CE)を考える。日本企業の実践例は逞しさと将来への期待感を感じる。

はじめに

本日は、日本技術士会の資源工学部会が開催され、東京大学大学院工学系研究科の梅田靖教授による登壇された。残念ながら前半は参加できなかったけど、後半は拝聴した。非常にわかりやすく解説されていた。今回はその中のキーワードをネットで裏ドリしながら理解した範疇でまとめてみたものだ。

プラネタリー・バウンダリー

惑星間境界(Planetary boundaries)とは、人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念だ。この概念は、ストックホルム・レジリエンス・センター(現ポツダム気候影響研究所)のヨハン・ロックストロムとオーストラリア国立大学のウィル・ステフェンを中心とする地球システム・環境科学者のグループによって提唱された。人類のための安全な活動空間を定義すべく、あらゆるレベルの政府、国際機関、市民社会、科学界、民間企業を含む国際社会で影響力を持つようになった。9つの地球変動プロセスからコンセプトが構成されている。具体的には、下の図に示すように、気候変動、生物多様性の喪失、生物地球化学的循環、海洋酸性化、土地利用の変化、淡水、オゾンホール、大気エアロゾル粒子、化学物質による汚染だ。

(出典:EnergyShift

資本主義の非物質主義的転回

京都大学の諸富徹教授(1968年11月26日生)は、資本主義は非物質化していると指摘する。新しい資本主義へと世界へ変化する中で、資本主義の非物質主義的転回にいかに対応するか、労働生産性と炭素生産性の低迷にいかに対応するか、不平等・格差の拡大をどう防ぐかなどの課題が重要とされている。日本は、これまでモノづくりでは世界的に活用したが、ビジネスモデルやプラットフォームの整備では欧米の後塵を配している。これからの日本社会、日本経済の復活にはこのような視点が不可欠と提唱する。

(出典:アマゾン

ECの政策の進展

環境ビジネスなどのプラットフォームや、社会的なフレームワークなどのコンセプト作りでは欧州がリードしている。そんなEUの政策の変遷を紐解いてみたい。

EUの成長戦略の変遷

自分が初めて出張したのはポルトガルのアルブフェイラというリゾート地だったことは以前投稿した。そんなポルトガルの首都リスボンで2000年に制定された戦略はリスボン戦略(Lisbon Strategy)と呼ばる。2010年にはより賢く、持続可能な包摂的な成長を目指す欧州2020戦略が提唱された。2019年には欧州委員会が欧州グリーンディールの成長戦略を公表した。

(出典:蓮見雄立教大学経済学部教授

欧州グリーン・ディール

欧州委員会は前述の通り2019年に持続可能なEU経済の実現に向けた成長戦略である欧州グリーン・ディールを発表した。欧州委員会は、持続可能な未来に向けてEUの社会経済を変革することを骨子としている。

(出典:SmartGrid)

欧州新産業戦略

2020年3月には、欧州グリーンディール投資計画に続いて、欧州新産業政略を発表した。ここでは、グリーンディールの黄ばんだり、持続可能な製品の標準化、消費者のエンパワーメント、循環性が高い産業分野を重視し、廃棄物の削減といった目標を掲げている。さらに同年7月には水素戦略、同年10月にはメタン排出削減戦略などを矢継ぎ早に発表している。

(出典:NEDO

Circular Economy Action Plan

欧州委員会( European Commission )は、2020年3月に新循環経済行動計画(CEAP:circular economy action plan)を採択した。EUの循環型経済への移行は、天然資源への圧力を低減し、持続可能な成長と雇用を創出する。EUの2050年の気候ニュートラル目標を達成し、生物多様性の損失を食い止めるための前提条件だ。新しい行動計画は、下の図のように、製品のライフサイクル全体に沿って、製品の設計方法、循環型経済プロセスの推進、持続可能な消費の促進、廃棄物の防止と使用された資源がEU経済圏にできるだけ長く留まることを目標としている。


(出典:蓮見雄立教大学経済学部教授

Mindsphere

マインドスフィア(MindSphere)は、シーメンスがIoTを提供するためのプラットフォームだ。MindSphereは稼働データを保存し、デジタルアプリケーションからアクセス可能であり、産業のお客様が貴重な事実情報に基づいて意思決定できる。重機や自動生産や車両フリートマネジメントなどのアプリケーションで使用されている。例えば、自動車などの動く資産からのリアルタイムの遠隔測定データ、時系列データ、地理的データなどがあり、これらは予知保全や新しい分析ツールの開発に利用できる。

(出典:IoTNEWS)

VMS(Vision-Meso-Seeds)モデル

VMSモデルとは、ミクロレベルの有望シーズとマクロレベルの社会ビジョンのマッチングを設計し、定量的な目標とともにビジョンの達成を促すことを目標とするモデルだ。ビジョン志向のトップダウンアプローチとボトムアップアプローチから導かれる戦略や施策を組み合わせるモデルだ。メゾレベルの研究を推進するために必要な理論、具体的手法、アプローチを強化・検証するために、ケーススタディを通じた知識の蓄積が必要であることを提言するものである。

(出典:MDPI

ライフサイクル設計

日本企業を主たるターゲットとして、ライフサイクル設計を実践している事例を概観してみたい。

富士フィルムの写ルンです。

写るんですというとどのCMを連想しますか。自分は樹木希林と岸本加世子の絡みを思い出す。調べるとこれは2000年から2003年のCMだった。1963年に使い捨てカメラ「fimera」を試作するが商品化はされなかった。1986年には「写るんです」と「ルンルン気分」の組み合わせた「写ルンです」として発売した。現在までの出荷台数は17億本という。通常のフィルムはカメラに装着し、撮影したらフィルムのみを取り出して、現像を依頼する。しかし、写ルンですではカメラ機能を持つ本体とフィルムが一体なので、現像するときに本体部分も受領するので、これを製造と逆にステップで分解して、再利用できるものは再利用するというライフ設計がなされている。

(出典:富士写真フィルム

リコーのコメットサークル

リコーが1994年に持続可能な社会を実現するためのコンセプトをコメットサークルとして提唱し、実践している。2050年には製品の証紙原価率を93%、2030年には製品の証紙原価率50%を目標として設定した。これに向けて3年ごとの環境行動計画を策定している。

(出典:RICOH)

ロールスロイスの航空機エンジントータルケアサービス

英国のロールスロイスというと高級車の開発メーカーのイメージが強いが、実はGEなどの航空機エンジンの世界三大メーカーの一つだ。そして、新しいビジネスモデルとして、製造・販売する方法ではなく、ジェット機の利用ベースで課金するビジネスモデルを実践している。これを支える技術がIoTだ。どこでどのようにエンジンがどれだけ使われているのかをきめ細かく管理できるので、適正な保守や修理が可能となる。利用者から見ても、初期費用を抑えられるのでキャッシュフロー的にも助かるので、普及している。世界初の垂直離着立機のハリアーにもロールスロイスが開発したペガサスを搭載している。

(出典:ニュースイッチ

ブリヂストンのトータルパッケージプラン

ブリヂストン社の主力商品であるタイヤも製造して販売し、保守するというタイヤメンテナンスプラン(TMP)ではなく、これらを一括受託する月次定額サービスをトータルパッケージプラン(TPP)として提供している。

(出典:C燃費

おむつお届け定額サービス

保育園に子供を預けるときに、保護者がおむつに名前を書いて保育園に預け、保育園はそのオムツをその子に利用するというのが通常の仕組みだ。しかし、これは保護者も大変だけど、保育園も大変だ。子供たちも保育園にはおむつが山積しているのに、自分は利用できないとなるとストレスになる。これらの課題を解決したのが、おむつの定額サービスだ。これには名前は書かれていないので、どのおむつをどの子供につけても良い。これは楽だ。保護者もおむつに名前を書いて届ける必要がない。そして、これを考えたプロバイダーも月額2,980円で適正な利益は確保できるらしい。素晴らしいとしか言えない。

(出典:PRTIMES)

コマツのKOMTRAX

銀行のATMを重機で丸ごと盗難する事件が発生した。当時の重機の鍵はモデルによって異なる程度なので、実は重機を盗難するのは簡単だった。コマツはこの事件の加害者ではないけど、やはり社会的な責任を果たすことを求められた。この4月度には日経新聞の私の履歴書をコマツ特別顧問である野路國夫さんが記載しているが、このコマツの素晴らしいのは、単に鍵を改善することに止まらずに、GPSを活用した位置管理に踏み込んだことだ。これを提供した1999年当時は顧客向けの見守りサービスだったが、2001年当時にはコマツ社内でノウハウを蓄積し、2001年後半には顧客の業務の見える化に貢献した。2004年には中国での展開を契機に本格的な活用が開始し、2005年には省エネ運転支援や下取り、保険サービスへと発展する。今では大型ダンプの無人運転を大規模案件で運用するなど顧客企業のオペレーションの一部を請け負うまでの存在に成長している。

(出典:lift.co.jp)

まとめ

これまでECの政策の流れや、日本企業におけるライフサイクルを実践している事例などを紹介した。知恵を働かせることで、ピンチをチャンスに転換する事例には快挙にいとまが無い。このような事例を見ると、日本企業の底力を感じるし、日本の将来、日本企業の将来に明るさを感じる。しかし、問題は企業レベルだけでは解決しないことも多い。ライフサイクルをベースにした定額制サービスの提供プロバイダー事業に担う企業はどこになるのだろう。また、企業が適切に活動できるように政府レベルでも規制緩和や適正な補助金サービスなどを組み合わせていく必要があるだろう。

以上

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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