はじめに
遠隔医療について4回に分けて投稿しており、今回はその2回目だ。遠隔医療の課題について利用者の観点と医療従事者の観点から紐解いてみたい。
その1:遠隔医療の定義と傾向(前回の投稿)
その2:遠隔医療の課題(⇨ 今回)
その3:増大する医療費と使える遠隔診療アプリの動向(次回)
その4:セキュリティと今後の可能性(次々回)
遠隔医療の課題
利用者の観点
課題1-1) 平易な操作
年齢階級別の一人当たりの年間医療費を見ると、60代前半では40万円、70代前半では60万円、80代前半では90万円、90代以上は120万円と60代以上で急激に増加する傾向にある。この年代の利用者が平易に利用できるような遠隔医療を実現することが可能かどうか。そもそも要介護者であれば介護する方が簡単に操作できるかと読み替えることもできる。対面診療では確認できることも遠隔診療では確認が難しいという側面はあるが、逆に日常的にバイタルセンサーを装着するようにすれば、連続的な監視が可能であり、かつ異常が発生しつつあるような状態や、異常な状態をリアルタイムで判断することも可能だ。利用者に多くの操作を要求しないようなスマートな医療機器の開発や提供が望まれる。
(出典:日本の遠隔医療)
課題1-2) 合理的な料金
日本経済新聞では遠隔医療での患者負担は850円と、対面での患者負担(1,070円)よりも2割ほど安い。これは遠隔医療を進める上で追い風になると思っていたら、遠隔医療の場合にはシステム利用料などを加算することが認められていて、これが保険外費用のため100%患者負担になるため、逆転現象が発生している。体調を見てもらうだけなので、対面のために病院に行くよりは、自宅で遠隔で見てもらう方が安全だし、安心だと思っても、交通費以上に診断費用が高くなると無理してでも対面となる。これでは本末転倒だろう。なぜこのようなことが発生するのか。早期に是正してほしい。
(出典:日本経済新聞)
課題1-3) 待ち時間の拡大
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が2015年に実施した第5回 日本の医療に関する意識調査によると、医療を受けた患者の最大の不満は待ち時間だ。遠隔診療は、日時を予め決めておいて、その時間になれば遠隔診療を行うことが基本なので、この点は改善できそうだ。つまり、一般的な病院では予約なしの患者が多く、待ち時間が長くなりがちだが、遠隔診療の場合には事態で待機していて、時間になったら声がけしてもらえるのであれば患者も介護者も無駄な移動や待機が不要となる。しかし、医師側での都合で予定が変更したり、遅れたりすることは医療の世界では起こりがちだ。その結果、予定の時間になっても始まらない等の問題にどのように対応するのかは双方でよく相談しておく必要がある。例えば、ある一定の時間枠の中で、医師から呼び出すとか、予約の時はざっくりした時間だけど、当日にはより具体的な時間に更新していくような工夫が有効だろう。
(出典:日本医師会総合政策研究機構)
医療従事者の観点
課題2-1) 診断や治療のミスの防止
現在の医療は対面を基本としている。遠隔医療を実践する上で、医療関係者が最も心配するのは、本人確認を含めた誤診だろう。対面であれば五感をフルに活用して診断するが、これを遠隔診療では制限される。診療のデータは全て正常だけど、何かおかしいというようないわゆる第6感も制限される。バイタルセンサーなどのデジタル情報が補うことになるため、AIによるデータの分析技術は進歩するが、医師の勘は鈍ることになる。また、本人確認を正確にできないと意図しない人違いや意図的な犯罪への対策が必要だ。特に、現在はコロナ禍の緊急事態として初診も遠隔で対応して良いことになっているため、慎重な対応が必要だ。
課題2-2) 診療報酬制度の是正
遠隔診療では再診療と処方箋料しか算定できないことが遠隔診療の普及の妨げになっているいう。前述の通り、現在は初診でも遠隔診療が可能だけど、その場合はどのように算定しているのだろう。政府は未来投資戦略2017の中で診療報酬の見直しを進めることとしているが、その結果が前述のシステム利用料の加算だとしたら愚策だ。利用者の負担を軽くすると同時に医療関係者の収入を極端に減らさない施策こそが必要なのではないだろうか。その意味では、遠隔医療の場合には、患者負担を3割ではなく、2割にする等の是正策が望ましいのではないだろうか。
(出典:curon)
課題2-3) セキュリティ対策の整備
患者と医師の間でやりとりはプライベートな個人情報であり、特に医療データのセキュリティ対策は重要な課題だ。厚生労働省が発行する「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を発行していて、下に「モバイル環境における接続形態」の図を引用する。セキュリティの世界の技術革新は非常に早いが、それにきちんと追随できていると言えるのだろうか。非常に危うい感じがある。特に、高齢者の多い地域では、高齢者対応の難しさの問題や対面診療に比べて低い診療報酬の問題、システムの導入コストの問題、そしてセキュリティ面への不安の問題などを抱えている。成功事例や失敗事例を積極的に発信することが普及の鍵ではないだろうか。
「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(出典:厚生労働省)
まとめ
今回は遠隔医療を促進する上での課題について、利用者(患者)の立場と、医療関係者(医師)の立場から考えてみた。利用者から見ると、わざわざ病院に行かなくても、自宅にいながら診療してもらえるということで基本は歓迎だけど、機器の操作が難しかかったり、煩雑だったりすると使いにくくなる。また、対面よりも遠隔の方が逆に診療費が高いとなると無理して病院に出向くこともあり得る。これでは本末転倒だ。せめて遠隔での患者負担は対面での患者負担と同額以下にしたい。医療関係者から見ると、医療ミスの防止やセキュリティの確保など、対面医療にはない課題に対応しながら医療報酬が減少するのではインセンティブが高まらない。このため、必要なシステム利用料などが認められるようになったけど、これには保険が効かないため、患者の負担増に直結している。患者の立場と医師の立場と行政の立場での議論をきちんと行い、患者だけに負担を強いることがないような方策を見つけ出して改善していく必要があると感じた。
以上
最後まで読んで頂きありがとうございました。
拝