MBAの名授業シリーズ:建築業界で活躍する女性社長・籠田淳子ゼムケン代表取締役の講演

はじめに

前回は、MBAの名授業シリーズとして米倉教授による大山会長を呼んでの授業を紹介した(参考1)。今日は、米倉教授と双璧とも言える小川孔輔教授による授業だ。ゲスト講師は、有限会社ゼムケンサービス代表取締役の籠田淳子さんだ。籠田さんの講義の後、7つのグループに別れて討議して発表した。課題は女性のリーダシップ。女性メンバーの本音が炸裂した。下の写真は、有限会社ゼムケンのホームページの社員だ。どの社員も溢れるような笑顔が素敵だ。一番左が籠田淳子代表だ。

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出典:代表取締役 籠田 淳子«私たちについて|ゼムケンサービス

1. 籠田淳子先生の講義

法政大学MBAの卒業生

この籠田淳子代表は法政大学のイノベーションマネジメント専攻科の第16期卒業生なので、3年先輩だ。2015年1月9日に総理官邸で内閣府が選定した第一回「女性が輝く先進企業」に選定されて安倍内閣総理大臣から内閣府特命担当大臣賞を受賞している。内閣総理大臣賞を受賞したのはセブン&アイホールディングと北都銀行。他に特命担当大臣賞を受賞したのはカルビー、資生堂、日産、LIXILグループだ。日本を代表する企業の代表と並ぶ雄志だ。でも、本当は、建設会社なので、建設の作業服で行こうとも考えたが、流石にそれはやめて、ヘルメットを装飾して独自色を放っている。安倍総理から直接声をかけてもらって、亡き父や夫への感謝と建設業の活性化への抱負を述べている。素晴らしい。
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出典:https://www.areabiz.jp/kitakyushu/archives/19129

籠田淳子代表の所有資格

タイトル的には一級建築士だが、それ以外にも管理建築士、インテリアプランナー、商業施設士、住宅性能評価員、監理技術者、福祉住環境コーディネーター3級、被災建築物応急危険度判定士、建築生産専攻建築士、登録特殊建築物等調査資格者、建築仕上げ改修施工監理技術者、アロマコーディネーター、ゴンドラ特別教育と広範囲な資格所有者だ。建設業で生きていくための資格と女性の強みを発揮する資格の両方をカバーしているのがすごい。
出典:建築の相談|JKDT女性建築デザインチーム

女性建築デザイナーチーム(JKDT)

今から10年ほど前のことを振り返ると籠田さんの涙腺が緩む。苦しいことや辛いことが重なった。でもそのどん底で気づいたのは、先代(父)のやり方を踏襲するのではダメだということ。そうではなく、自分がやりたいこと 、自分ができること、自分がすべきことが何かを考え、悩み、その結果行き着いたのがJKDTだ。JKDTとは、女子高生のダンスチームではない(笑)。女性建築家デザインチームの略だ。家を守るのは女性だ。冷蔵庫のどこに何があって、賞味期限はどうか、残量はどうかまで知っている。タンスのどこに何があるかを知っている。ある家を設計するときに、押入れの代わりにウォークインクロゼットを提案した。嫌がる職人を説き伏せて完成した。お客様は大喜びだ。籠田さんは商売人でもある。お客様が喜ぶ提案をして、実現したらちゃんと報酬をもらう。そして、その報酬は職人に分配される。お嬢のいうことを聞くことはシャクだけど、有言実行を繰り返すうちに、職人さんとの信頼関係も強くなる。そこまで行くのは大変だけど、それを実行した籠田さんはやはりすごいと思う。
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出典:https://www.facebook.com/JKDT2012/

建設会社の創業者のお嬢様

幼少の頃はお嬢様として育てられたという。それを聞いていた男性の生徒は不謹慎ながら懐疑的な表情だった(笑)。お父親である籠田春夫さんは大工だ。1年365日のうち休むのは「盂蘭盆会」つまり8月15日のお盆の日と、正月などの特別な日だけだ。大工はなんでもやると言って左官業もガス・水道管工事も電気工事もなんでもやっていた。お母さんはそれを支えて、職人さんにいつも食事を出し、夜はお酒を出して家業を支えた。籠田淳子さんは、そんな両親から年子の兄に続いて長女として誕生した。しかし、12月の予定が9月に産まれた未熟児だ。生存の危機があった。これが彼女の最初にして最大の人生のハードルだったのかもしれない。しかし、驚異的な生命力でこれを乗り切った。両親はそんなこともあり、お嬢様として大切に大切に育てようとミッションスクルールに通わせたという。

建築家を目指す

生命力溢れる籠田さんはミッションスクールではどうだったのか?両親の期待に応えて深窓の令嬢として育ったかというとそうではない。中学、高校と生徒会長を6年間務めた。当時から男気があったのだろう。バレンタインのときにもらうチョコレートの数は半端なかったという。不謹慎ながらそれを聞いていた女性の生徒は懐疑的な表情だった(笑)。きっと、そのころに持って生まれたリーダシップが開花したのだろう。しかし、そんな平和な家族で父と断絶する事態が起きた。

新聞記者になりたかった母の協力

籠田さんは園児の頃は幼稚園の先生になりたいと思ったという。小学校に上がると小学校の先生、中学校に上がると中学校の先生に憧れた。素直でわかりやすい性格だ。でも、高校を卒業して、ミッション系の大学に進むと信じていた父は、籠田さんから建築家を目指したいと聞く。籠田さんにとっては優しい父の顔色がみるみる変わった。可愛い娘の願いを叶えてやりたい。でも、女性が土建の世界で生きていけるわけがない。苦労するに決まっている。お母さんに淳子を絶対に建築の世界に活かすなと命令した。しかし、籠田さんの母親も強者だ。表面的には夫(籠田さんの父)を立てながらも生活費でいける範囲の大学に行くことを条件に応援してくれた。しかし、それから父は口を聞いてくれなくなった。あえて父親の立場で弁解すれば、娘と直に向き合って話し合っても、娘を説得できないことを父親はわかっていたのだと思う。そんな父と向き合えるように事態が好転するのはもう少し先のことだ。

二級建築士をとって社会人デビュー

最終的には、滋賀県の短期大学で建築を学んだ。そして、二級建築士を取得して社会にでた。当時はセクハラという言葉もないほど、セクハラが横行していた。文字にするのが幅かれるようなこともあった。男性に混じって会議に参加しても、自分だけお茶がない。後で聞くと女性は女性にお茶を入れないものだという。これはびっくりした。しかし、そんな逆風の中でも着実に実績を積み上げて、難関の一級建築士を取得した。大工の父親から頑健な肉体と精神を受け継ぎ、本当は新聞記者になりたかったという母から聡明な頭脳を受け継いだ最強のDNAホルダーだ。また、小さい時から大工の世界を見てきたことが血となり、肉となっている。多分、大学で建築のことを学ぶときには、初めて学ぶというよりは、自分の中に混沌と蓄積されていた膨大な知識や経験や知見が一気に整理されたり、理論的な根拠を学ぶことでめちゃくちゃ気持ち良かったのではないかと思う。多分、成績もダントツだったのだろう。

一級建築士をとると先生になった。父とも和解。九州に戻ってこい

籠田さんを取り巻く環境が一変する事態が起きた。そんなことになるとはと籠田さん自身も驚かれたようだ。それは、籠田さんが難関の一級建築士試験の合格して、名刺に一級建築士と書いて、それをクライアントに渡したときだ。名刺を受け取った人は、3回ぐらい名刺と本人を見比べたという。一級建築士になれば先生と呼ばれる。周囲の人が籠田さんを見る目が一変した。そして、実はその前日に父親からも「家に帰ってこい」と言われた。一級建築士になれば男も女もない。籠田さんの最大の理解者であった父親も、まさか娘が一級建築士になれると想像していなかったようだ。父親も母親もその喜びは想像に難くない。本当によく頑張ったと思う。偉い!

建築業のサービス業化

和解した父親のもとで一級建築士として腕を振るった。父親は、職人たちに、娘の指示に従うように命じてくれた。そうでなければ、押入れの代わりにウォークインクロゼットを作ってくれない。職人とは、過去の伝統を守り、決まり事を変えないことで技術を継承する。そんな職人に無理な注文を命じる。職人は、恥ずかしい仕事をするのは恥ずかしいと抵抗する。そんな軋轢を温かい目で見守っていたのは父親だ。そして、娘である籠田淳子さんに対して、「お前がやっとるのは建設業ではない。サービス業だ。」と言ったという。つまり、建設業のサービス業化というとてつもない宝の山に娘が向かっているのだと父親は理解していたのではないだろうか。

職人との軋轢

籠田淳子さんの仕事の上司であり、先輩であり、父親であった春夫さんも20年ほど前に他界された。兄は穏やかな性格だ。先代の父を手本として仕事を進めようとする。しかし、職人の動きは違う。先代と同じように言っても先代の時のようには職人は動いてくれない。職人からすれば、自分たちが小さい頃から自分たちを育ててくれた先代は父のようなものだ、先代の奥さんはお母さんのようなものだ。先代は全てを理解してくれる。でも、その娘はどうだ。元気なお嬢ちゃまだったのに、九州をでて、大学に進んで、一級建築士になって帰ってきたら、とんでもないことばかりを言い出す。ついていけない。先代がいるうちは我慢したが、それももう限界だ。そんな風に感じていたのかもしれない。

建築建設女学校プロジェクト

父親は職人を育てた。自分は建築や建設に関わる女性を育てよう。そんな決意から立ち上げたのが「けんちくけんせつ女学校」だ。このネーミングもユニークだけど、URLの「kenkenjo.jp」もユニークだ。JKDTも印象的だけど、この小文字のkenkenjoは可愛いし、シンプルだと個人的には思う。「けんちくけんせつ女学校」とはネーミングもユニークだ。
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出典:けんちくけんせつ女学校

西日本新聞での紹介

別の授業で記者会見をしたり、記事を書いたりした。下の記事を書いた湯之前八州さんは、その講師の同僚だったかもしれない(笑)。けんせつ小町とか、ドボジョのネーミングはヒットしなかったけど、よくまとめている。流石にプロの記者は上手だと感心する。これによれば、国土交通省は土木や建築業界で働く女性を2019年までの5年間で10万人から20万人に倍増する目標を設定しているが、2019年2月の労働力調査では12万人だ。建築現場で働く技能者が伸びないが、1級建築士などの資格を持つ女性技術者は2万人と増えている。体力的なハンディのある女性は頭脳で勝負する方がいいのかもしれない。
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出典:いよいよ2019年開講します。 | けんちくけんせつ女学校

経営理念

有限会社ゼムケンの経営理念の骨子はぜむけん赤本でまとめ、ぜむけん手帳に進化し、現在の10年ビジョンにつながっている。会社の10年ビジョンを12月に全社員に示す。社員は年末年始に悩みながら一人ひとりの10年ビジョンを考える。そして、それを1月4日にそのビジョンの発表会を行う。初回は家族のことばかりだった。でも、何度もやるうちに、自分のことや、会社のこと、さらには社会のことを考えるようになる。これこそが成長だ。視野が広がり、知見が深まると、視点が高くなる。仕事のこと、家族や家のこと、学ぶこと、そして社会のことを考える。素晴らしい取り組みだと思う。

仕組みを作ると意識が変わる

籠田淳子代表は、アイデアパーソンでもある。思いを形にするのが上手だ。多分、それは建築家としての才能でもあり、経営者としての才能でもある。例えば、ITの活用だ。いわゆる現場の見える化だ。自分は監理技術者として現場に立ち会うことも多い。今週も来週も職長研修の講師の予定がある。色々と指導するけど、まずテキストが硬い。アイデアが古い。しかし、籠田さんが率いるゼムケンは柔軟でしなやかでありがら合理的だ。ゼムケンでは、現場で確認すべき事項を9つに絞り、それぞれのチェック状況を写真にしてSNSにアップする。みそは、現場の状況を撮影するのではなく、それを見る社員を写すことだ。籠田代表が全ての現場に毎日顔を出すことは物理的に厳しい。しかし、全ての現場で各社員が活動している状況をSNSでチェックすることは可能だ。そして、その写真に社員の顔が写っていたら、その表情から社員の体調を推定したり、背景から天候面のリスクを推定したりできる。何より、作業の見えるかを実践されているのは素晴らしい。
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業務の細分化と年次努力目標

籠田さんの経営者としての非凡さは、下の表を見るだけでわかる。ワークシェアリングを実践すべきと説く人は多い。しかし、それをどのように具体的に実践するかを指導できる人は少ない。下の表では現場で求められる業務を20に細分化したうちの7つのみを抜粋した。得意が◎、出来るが○、勉強すれば出来るが△、無理はxとしている。自分もよくメンバーの担務表を作成するが、◎と○ぐらいだった。籠田さんもxを定義しているけど、実際にxをつけていない。しかし、xをつけられるのはメンバーにとっては屈辱だし、プレッシャーになる。担務表のデメリットは○のついていない業務を軽んじてしまうところだけど、このxはそれを防止している。素晴らしい。さらにすごいのは、能力別に分けているところだ。赤字はどうしてもベテランにつくことが多い。そうすると△の人はどうしてもベテランに頼ってしまったり、ベテランが対応するから良いと考えがちだ。そこで籠田さんが工夫しているのは黄色でマーカーをつけている点だ。特にこの点を頑張れよ!見てるよ!というメッセージは確実に社員に届く。社員の名前は隠したけど、一人ひとりの現状を見た上で、今はこうだけど、次はこれを目指そうよというリーダとしての籠田さんの暖かさと厳しさが端的に現れていると思う。
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2. グループ討議

今回も、生徒52名がAグループからGグループまで7つのグループに分かれた。それぞれに女性が入っている。毎回少しずつメンバーが変わるように配慮されている。今回はCグループだった。よく知っている人が三人、過去に同じだった人が二名、いい感じだ。講義の中で全員が発表することを求められていて、七名中二名がまだ未発表だったので、その二名が発表することになった。今回のテーマは、「女性らしいリーダシップの取り方」だったので、女性が発表するグループが多かった。それぞれ面白い提案をしていたが、MBAに通う女性陣からは本音が垣間見えるものも多い。発言者の許可はまだとってないので、指摘があれば修正します(汗)。

TYさん:多分これが最も籠田さんに響いたようだ。女性らしいリーダシップは優しさと厳しさの組み合わせ。一言で言えば最強の「おかん」
MTさん:男性的なリーダシップを女性がしても男性には響かない。よく顔を出して、下手からアプローチすると男性は協力してくれる。
KNさん:女性は暮らしへのこだわりがある。男性が気づかない目線がある。
IMさん:能力があれば男女は関係ない。
KGさん:チームプレイ大事。バレーボールようなきめ細かな意識づけと共感が大事。
NKさん:女性こそリーダ向き。教えたり、コーチングするのはしなやかな女性向き。

籠田さんからの指摘

おかんが最強というのはそう思う。厳しさと優しさ。夏の熱中症対策のために梅干しを配りまくる。でも塩っけが強いと余計に水分が欲しくなったりする(汗)。笑わせることも大事。女性は家庭でも、職場でも元気で健全に明るいのが一番。

OODA

管理サイクルといえばPDCAだ。これは今もこれからも重要だ。しかし、PDCAだけではダメだ。変化の激しい状況の中では、計画ありきでは身動きが取れない。現状をよく理解して、よく把握して、何か問題があればすぐに対応する。そんなコンセプトに基づく管理サイクルとして注目されているのがOODA(うーだ)だ。籠田さんの講演の中で、作業員や作業の様子をよく見て、観察して、考察しているのが伺ええたので、Cグループの提案に追加してもらったら、ゼムケンはOODAの実践会社と評価してもらったことがあるという。さすがだ。
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出典:OODA-LOOP-top | データのじかん

まとめ

今回は、MBAの先輩であり、女性起業家の実践者であり、女性育成の推進者でもある笑顔がチャーミングな籠田淳子ゼムケン代表の講演を拝聴した。厳しいだけでもダメだし、優しいだけでもダメ。硬軟抱き合わせて、清濁併せ呑むような心が広く、度量の大きな人物は男女関わらず魅力的だ。母親は厳しくもあり、優しくもある。人の意識を変えることは難しいことだけど、女性のしなやかさが発揮できるような仕組みを取り入れることは可能だし、そのようなことを積み重ねることで人の意識も変わるし、意識が変われば、日本社会の活性化にも繋がる。そんなことを学んだ気がする。どうもありがとうございました。

以上

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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