九州7県の応急仮設住宅、今後30年でどれくらい必要になる?過去100年の実績から試算してみた[第一弾]

  • 2026年10月28日
  • 2026年10月30日
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はじめに

今回は、災害対策スキームをブロック単位で検討すべきではないかという問題意識からの研究です。これを実証するために、災害が多発している九州ブロックに焦点を当てて、これまでどれだけの災害があり、仮設住宅がどの程度まで整備されたかをまず精査します。 今後は、2部として、その仮設住宅が完成するまでのリードタイムとこれを短縮するための課題は何かにフォーカスします。3部以降では、これらを踏まえた対策とその課題について深掘りしたいと思います。


エグゼクティブサマリー

九州7県(福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島)で、2026〜2055年の30年間に応急仮設住宅がどれくらい必要になりうるかを、過去の実績から試算しました。結果は「桁と幅」を示すものです。ぴったり当てる予測ではありません。低・標準・高の3つは、条件を変えたシナリオで、統計的な信頼区間ではありません。

風水害(豪雨・台風など)は、数字を確認できた事例だけを基準にすると、建設型で年平均約70戸、30年で約2,100戸でした。確認できた事例だけの数字なので、将来の下限でも確定値でもありません。南海トラフ地震が最大クラスで起きたと仮定すると、九州7県の想定需要の合計は、住宅全体で約14万戸、そのうち建設型が約4.5万戸(幅は1.4万〜11.8万戸)でした。これは今回置いた条件にもとづく暫定試算で、南海トラフが起きたときの一般的な必要戸数ではありません。県別では宮崎県が最大です。南海トラフの30年確率を掛けた数字は、統計的な「期待需要」ではなく参考値です。確率の対象(M8〜9クラス)と、被害想定の対象(最大クラス)が違うためです。

九州が大きく被災するケースの県別の詳しい数字は入手できていません。そのため別のケースの数字で代用しており、この点も限界です。この記事は、実績の分析と需要の試算、その不確実性の説明にとどめ、政策の提案は含みません。


1. 何を調べたのか

応急仮設住宅には、大きく3つの形があります。

  • 建設型: プレハブなどの仮設住宅を新しく建てる
  • 賃貸型(みなし仮設): 民間の賃貸住宅を借り上げる
  • 公営住宅等: 公営住宅などを一時的に提供する

この記事では、3つを区別して数えています。調べ方は2段階です。

  1. 過去の実績の整理(1926〜2025年の100年分)。九州7県で、どの災害でどれくらい仮設住宅が使われたかを調べました。
  2. 将来の試算(2026〜2055年の30年分)。実績から「被害1棟あたり、どれくらいの住まいが必要になったか」を割り出し、将来の災害に当てはめました。

2. 過去100年の実績で分かったこと

調べた23の災害のうち、数字を確認できたのは17災害でした。残る6災害は、実績があったかどうかを確認できませんでした。「確認できなかった」は「ゼロだった」という意味ではありません。詳しい数字が得られたのは、次の2つの災害です。

2016年熊本地震 2020年7月豪雨(熊本県)
全壊+半壊(棟) 約4.3万 約4,600
建設型を整備した数(戸) 4,303 808
ピーク時の入居総数(戸) 20,255 1,814

(ピーク時の入居総数は、建設型・賃貸型・公営住宅等の合計です。)

実績から見えた注意点もあります。

制度の限界: 災害救助法ができたのは1947年です。それ以前は、記録が少ないだけでなく、制度自体がありませんでした。

2011年以降は賃貸型が増えた: 被害あたりの仮設住宅の戸数は、2001〜2010年より2011〜2020年のほうが多くなっています。古い実績をそのまま使えない理由です。

実績は少数の災害に偏る: 2011〜2025年に数字を確認できた九州の風水害のうち、建設型の約78%は2020年7月豪雨の1件でした。

最大値は足せない: 災害ごとのピークは時期が違うため、単純に合計しても「九州全体の同時のピーク」にはなりません。

3. 試算のしくみ

試算は、次の考え方です。

住宅全体の需要 = 被害(全壊+半壊の棟数) × r

建設型の必要戸数 = 被害 × g

rとgは、実績から割り出した係数です。

r(入居率): ピーク時の入居総数 ÷ 被害。熊本地震は0.47、2020年7月豪雨は0.40でした。被害1棟あたり、およそ0.4〜0.5戸が入居した計算です。

g(建設型の整備率): 建設型を整備した戸数 ÷ 被害。熊本地震は0.10、2020年7月豪雨は0.18でした。

材料になった実績は、この2災害だけです。2つしかないので、1つの値に決めず、「低・標準・高」の幅で扱いました。

4. 災害の種類別の結果

風水害(豪雨・台風・土砂災害)

2011〜2025年の15年間で数字を確認できた事例の平均を基準にしました。

建設型: 年平均 約70戸(30年で約2,100戸)

賃貸型: 年平均 約100戸(各災害の最大入居の合計)

この数字は、確認できた事例だけに基づく値です。 数字を確認できなかった災害は含まれていません。そのため、将来の下限でも確定値でもありません。2020年7月豪雨の1件を除くと、建設型の年平均は約0.22倍になるほど、1件の影響が大きい数字です。

九州の内陸地震(M6.8以上)

発生確率(30年で30〜42%)に、熊本地震級などの規模を掛けて、30年分の「期待寄与」を出しました。

建設型: 30年で約1,000戸

住宅全体: 約3,300戸

ただし、この確率は熊本地震(2016年)より前の評価です。熊本地震級になる割合も、2つの事例にもとづく仮定で、結果はこの仮定に大きく左右されます。

南海トラフ地震

内閣府が2025年3月に公表した、最大クラスの地震・津波の被害想定をもとにしました。

最大クラスで起きたと仮定したときの、九州7県の想定需要の合計(暫定試算)

住宅全体: 約14万戸(幅は5.6万〜31.5万戸)

建設型: 約4.5万戸(幅は1.4万〜11.8万戸)

県別(標準シナリオ)は、宮崎県が最大でした。

県 住宅全体(戸) 建設型(戸)
宮崎県 約10.4万 約3.3万
大分県 約2.5万 約8,100
鹿児島県 約5,900 約1,900
熊本県 約4,000 約1,300

宮崎県と大分県は、津波による被害の想定が大きいためです。

この数字の読み方(大事な点)

九州が大きく被災するケースの県別の数字は入手できなかったため、東海地方が大きく被災するケースの全壊・焼失の数字に7県をそろえました。暫定試算で、県別の最大とは限りません。

半壊の県別の数字もありません。そこで、過去の実績から「半壊は全壊の何倍か」を仮定して置きました。

7県の合計は、「同じ災害に対する各県の想定を足したもの」です。各県のピークが同じ時点とは確認できていないため、厳密な同時ピークではありません。

内閣府の「全壊・焼失」の棟数が、住宅だけなのか、事務所や倉庫などの建物を含むのかは、資料に書かれておらず確認できていません。実績の分析は住宅の全壊・半壊で行っているため、同じ対象かどうかは未解決です。含む場合は、需要を多く見積もっている可能性があります。

5. 南海トラフの「確率」をどう扱ったか

地震調査研究推進本部が示す南海トラフの30年確率は、M8〜9クラスの地震についてのものです。一方、内閣府の被害想定は、それより大きい最大クラスの地震・津波が対象です。内閣府も、最大クラスの発生確率は推計が難しいとしています。

そのため、確率と最大クラスの被害を掛けた値は、統計的な「期待需要」としては扱いません。最大クラスの被害を仮定した、参考的な確率加重試算として載せます。

確率の考え方は2つあり、別のシナリオとして分けました。

モデルA(BPT): 30年確率 20〜50%

モデルB(すべり量依存BPT): 30年確率 60〜90%程度以上

建設型の30年分の確率加重値(参考)は次のとおりです。

低 標準 高
モデルA 約4,900戸 約18,700戸 約64,400戸
モデルB 約10,500戸 約36,600戸 約111,500戸

(南海トラフ・内陸地震・風水害を合わせた値です。)標準値は確からしい値ではなく、確率の範囲の真ん中を置いたものです。

6. 30年分を合算すると(参考値)

建設型について、次の2つの場合に分けて足し合わせました。

低 標準 高
南海トラフが起きたと仮定した場合 約16,100戸 約47,700戸 約123,300戸
南海トラフが起きなかったと仮定した場合 約2,100戸 約3,100戸 約5,500戸

この「30年合算」は、最大クラスの災害の想定戸数に、内陸地震と風水害の期待寄与を足した参考値です。実際の累計需要ではなく、厳密な期待値でもありません。南海トラフは「起きれば大きい、起きなければゼロ」の災害なので、2つの場合に分けています。なお、この値は、年ごとの必要量を示すものではありません。災害はいつ起きるか予測できず、需要は大きな災害の直後に集中します。

7. どれくらい不確かか(感度分析)

前提を変えると、結果は次のように動きます。

南海トラフの確率モデル: モデルBの下限を基準にすると、モデルAの下限は0.33倍、モデルBの上限は1.5倍。

半壊が全壊の何倍か: 仮定の範囲により、0.44〜2.07倍。

建設型の整備率 g: 熊本地震だけを使うと0.72倍、2020年豪雨だけだと1.28倍。

賃貸型が使えない場合: 建設型が約3.1倍になる、極端な仮定。

風水害から2020年7月豪雨を除く: 約0.22倍。

内陸地震が熊本地震級になる割合: 0〜1で、結果は大きく変わります。

全体では、建設型の30年分の確率加重値は、低と高で約23倍の差になりました。最も大きなばらつきの原因は、南海トラフの確率と被害の置き方、そして賃貸型をどれだけ使えるかです。災害救助法の適用件数と、数字を確認できた事例数の比(約1.9倍など)は、頻度を補正する統計的な根拠がないため、標準の計算には使っていません。国の資料にある「洪水の発生頻度が2倍」という数字も、仮設住宅が必要な災害の件数には直接当てはめていません。

8. 建設型は、どれくらいの速さで整うか

発災後の1・3・6か月で必要な戸数を、一般的に示す根拠は足りず、未推計です。参考として、実績の完成のペースだけ紹介します。

2020年7月豪雨(熊本県): 1か月で4%、3か月で37%、6か月で100%が完成(起点日は仮定)。

2026年熊本地震(進行中): 熊本市を除く県内で、計画963戸のうち269戸(約28%)が、84日時点で完成。

2026年熊本地震は、今回の予測期間(2026〜2055年)の初年に起きた災害ですが、被害の確定値と整備の最終値がまだ得られていません。そのため、計算には含めず、参考として扱っています。

9. この試算の限界

この記事の数字には、次のような限界があります。

南海トラフ: 確率と被害の対象が違い、結果は参考値。九州の県別の被害想定は未取得で、暫定試算。全壊・焼失の対象(住宅のみか)も未確認。材料にした実績が2災害だけ。

風水害は、確認できた事例だけが基準で、未把握の災害は入っていない。

内陸地震の確率は、熊本地震より前の評価。

日向灘の地震、火山の噴火、個別の断層、土砂災害(単独)は、被害の想定がなく未推計。需要は、その分を含まず、低い側に偏ります。

南海トラフと内陸地震の連動など、続けて起きる災害は考慮していない。

資料の多くはツールで本文を取り出したもので、抽出の精度に限りがある。数字の細かい食い違い(たとえば雲仙普賢岳の戸数)は、未解決として残している。

「未確認」「未推計」「未把握」は、実績ゼロ、需要ゼロという意味ではありません。

まとめ

九州の仮設住宅需要は、平時の平均だけでは捉えられません。 確認できた風水害の実績では、建設型は年平均約70戸。一方、南海トラフの最大クラスの地震を仮定した今回の暫定試算では、住宅全体で約14万戸、建設型だけでも約4.5万戸となりました。年平均と一度の巨大災害の需要は直接比較できませんが、備えを考えるうえでは、その両方を見る必要があります。これらは将来を言い当てる数字ではありません。確率を掛けた値や30年合算も参考値であり、前提によって大きく変わります。それでも、大規模災害の直後には、数万戸規模の住まいが必要になる可能性を、検討から外すことはできません。

その需要に、各県はどこまで対応できるのか。九州全体で補い合うには、何を準備しておくべきか。今回の試算だけで広域対応の必要性を実証したとはいえませんが、県境を越えて供給能力を検討するための出発点になります。そして、必要な戸数を確保するだけでは十分ではありません。被災した人にとって切実なのは、「いつ入居できるのか」です。 次回は、仮設住宅が完成するまでの時間を追い、その短縮を妨げている課題を掘り下げます。

主な出典・参考資料

地震の発生確率・長期評価

地震調査研究推進本部「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)の手引き」(2025年9月改訂)。南海トラフ地震の発生確率と、2つの確率モデルの考え方を参照。

地震調査研究推進本部「九州地域の活断層の地域評価」(2013年公表)。九州の内陸地震の発生確率を参照。熊本地震(2016年)より前の評価である点に留意した。

南海トラフ巨大地震の被害想定

内閣府「南海トラフ巨大地震の被害想定(令和7年・最大クラスの地震)」(2025年3月、報告書説明資料)。

内閣府「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」掲載の報告書・関連資料。

応急仮設住宅の供給・入居実績

熊本県「令和2年7月豪雨からの復旧・復興プラン」。建設型応急住宅の整備実績を参照。

熊本県「【令和2年7月豪雨】応急仮設住宅等の入居状況の推移」。建設型・賃貸型・公営住宅等の入居状況を参照。

熊本県「『令和8年熊本地震』による建設型応急住宅の進捗状況について」。進行中の整備状況に関する参考資料。需要予測の係数には使用していない。

風水害・災害救助制度

国土交通省「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言」(2019年10月)。気候変動と水害リスクの背景資料として参照。洪水の発生頻度の変化を、仮設住宅需要の倍率に直接置き換えてはいない。

内閣府「災害救助法の適用状況」。対象災害の確認に参照。災害救助法の適用は、仮設住宅の供給実績があったことを意味しない。

数値と試算について

本記事は、公表資料をもとに、九州7県の応急仮設住宅の実績と将来需要を検討した研究ノートです。需要予測の数値は筆者による独自試算であり、国や自治体が公表した仮設住宅の需要予測ではありません。

低・標準・高の数値は、前提条件を変えたシナリオであり、統計的な信頼区間ではありません。また、南海トラフ地震の発生確率と最大クラスの被害想定を組み合わせた値は、統計的な期待需要ではなく、参考的な試算として示しています。

資料の対象期間は2026年10月までとしていますが、各数値の基準日は資料ごとに異なります。「未確認」「未把握」「未推計」は、実績や需要がゼロであることを意味しません。本記事では実績分析と需要試算を扱い、具体的な対策は続編で検討します。

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