はじめに
前回の第一弾では、九州7県を対象に、今後30年間に応急仮設住宅がどの程度必要になるのかを検討しました。今回はその続編として、災害が発生した後、必要な住宅が実際にどのくらいの日数で供給されてきたのかを調べました。
私は、今後の災害対策を考えるに当たり、個々の自治体の対応だけでなく、九州という広域的なブロックを単位として、災害の規模や住宅需要、供給の仕組みを捉える必要があるのではないかと考えています。第一弾の分析では、災害の種類や規模によって必要な住宅戸数には大きな幅があり、特に大規模地震が発生した場合には、過去の整備実績を大きく上回る住宅需要が生じる可能性が示されました。しかし、必要な住宅戸数を試算しても、それらを実際にどのくらいの期間で供給できるのかは分かりません。
必要な住宅戸数が分かったとして、それらの住宅を実際にどのような手順で、どのくらいの期間をかけて供給しているのでしょうか。 また、建設型以外の住宅確保手段はどのように利用されているのでしょうか。そして、仮設住宅への入居後、被災者はどのような過程を経て生活を再建しているのでしょうか。今回もAIを活用して調査を進めました。まずChatGPTとの対話で調査の骨子を整理し、ChatGPT Workを使って資料を収集・整理しました。その結果をClaudeで比較分析し、さらにChatGPTとの対話を通じて内容を点検し、この記事にまとめています。
明らかにしたかったことは多岐にわたりますが、今回の調査で得られた主な結果は3点です。一方、十分な資料が得られず、未解明のまま残った事項も少なくありません。調査対象は九州7県の過去の災害ですが、今回確認できた資料は熊本県の事例に大きく偏っています。そのため、2016年熊本地震と2020年7月豪雨を重点事例として、住宅供給までの時間、住宅確保の方式、費用、用地、行政と民間の役割、入居後の生活再建について分析しました。なお、今回の目的は、まず実態を明らかにすることです。具体的な改善策や政策提言については、今後の調査・研究を積み重ねたうえで検討することとします。
エグゼクティブサマリー
今回の調査から得られた主な結論は、次の3点です。
① 仮設住宅の最初の入居開始から、全戸完成までには大きな時間差がある。
2016年熊本地震では、最初の入居開始まで52日、全4,303戸の完成まで214日を要しました。2020年7月豪雨では、それぞれ29日と158日でした。最初の入居開始日だけでは、住宅供給全体の進捗状況を十分に説明できません。
② 住宅確保の方式によって手続きや費用の構成は異なるが、どの方式が最も早いか、安いかは判定できない。
建設型、賃貸型、民間住宅紹介、応急修理では、それぞれ異なる制度や手続きがあります。しかし、審査期間、入居までの待機期間、実際の総費用などを同一条件で比較できる資料は不足しています。
③ 仮設住宅への入居から生活再建までには、長い時間を要する場合がある。
過去には仮設住宅の利用が数年に及んだ事例が確認されています。住宅確保後の再建、転居、土地の返還まで含めて考える必要があります。ただし、今回確認できた資料は熊本県に大きく偏っており、九州7県全体について同じ結論が成り立つとまでは言えません。
まとめ:今回の検証仮説とその結果
第一弾で明らかになった住宅需要の規模を踏まえ、第二弾の調査で検証した論点を3つの仮説として整理しました。
| 検証仮説 | 検証結果 |
|---|---|
| 仮説1:最初の仮設住宅への入居開始と、全戸完成までには相当の時間差が存在する | 確認できた。熊本の2事例で明確な時間差があった |
| 仮説2:住宅供給の方式、用地確保、行政手続きなどの違いが、供給に必要な時間や費用に影響する | 一部確認。制度や工程の違いは確認できたが、時間や費用への影響の大きさは不明 |
| 仮説3:仮設住宅の供給後も、住宅再建や土地利用に関する課題が長期間続く | 一部確認。長期利用の事例は確認できたが、再建や用地返還の全体像は未解明 |
以下、それぞれの仮説について、具体的な調査結果を示します。
第1章 仮設住宅は、いつ、どれだけ供給されたのか
1-1 最初の入居開始と全戸完成の時間差
まず、過去の災害における建設型応急仮設住宅の供給状況を比較しました。代表的な事例が、2016年熊本地震と2020年7月豪雨です。
| 項目 | 2016年熊本地震 | 2020年7月豪雨 |
|---|---|---|
| 建設型住宅の整備戸数 | 4,303戸 | 808戸 |
| 最初の着工 | 15日後 | 7日後 |
| 最初の入居開始 | 52日後 | 29日後 |
| 全戸完成 | 214日後 | 158日後 |
※2016年は4月14日の前震、2020年は7月4日を起算日とした暦日差です。
ここで注目したいのは、最初の入居開始と全戸完成までの時間差です。2016年熊本地震では162日、2020年7月豪雨では129日の差がありました。つまり、最初の被災者が仮設住宅に入居できるようになった後も、住宅の整備は数か月にわたって続いていたのです。ただし、両災害では規模、被災地域、建設方式、用地条件などが異なります。そのため、単純に日数を比較して供給方法の優劣を判断することはできません。
1-2 団地ごとの供給状況から分かったこと
2020年7月豪雨では、24団地・26工期、合計808戸の建設工程を確認できました。これらの工程を再集計すると、次の結果が得られました。
・発災から着工まで:7〜104日、中央値28日
・着工から完成まで:15〜76日、中央値58日
・発災から入居開始まで:29〜156日、中央値84日
入居開始日の実績が確認できた25工期・792戸を対象に、各工期の戸数で重み付けして計算した中央値は98日でした。この98日は、個々の被災世帯の待機期間を表すものではありません。団地ごとの入居開始時期を整備戸数で評価した数値です。それでも、最初の入居開始が29日後だったという情報だけでは、住宅供給の全体像を捉えられないことが分かります。
1-3 第一弾の将来需要と比較すると
第一弾では、南海トラフ巨大地震が発生した場合の九州7県の建設型応急住宅必要戸数を、標準シナリオで約4万4,600戸と暫定試算しました。これは2016年熊本地震で実際に整備された4,303戸の約10.4倍に相当します。ただし、比較しているのは将来の必要戸数と過去の整備実績です。この倍率は規模の違いを示すものであり、住宅供給能力が何倍不足するかを表しているわけではありません。また、必要戸数が10倍だからといって、完成までの期間も10倍になるとは限りません。過去の実績から、数万戸規模の住宅をどの程度の期間で供給できるかを推定するには、まだ十分な資料がありません。
仮説1の結論:最初の入居開始と全戸完成までに大きな時間差が存在することは、今回の2事例で確認できました。
一方、その時間差が他の災害でも同じように生じるかどうかは、さらに検証が必要です。
第2章 住宅供給に時間がかかるのはなぜか
2-1 住宅確保には複数の方式がある
災害後の住宅確保というと、プレハブなどの仮設住宅を新たに建設する方法が思い浮かびます。しかし、実際にはそれ以外にも複数の方法があります。今回の調査では、主に次の4方式を対象としました。
| 方式 | 内容 |
|---|---|
| 建設型 | プレハブ、木造、移動型住宅などを新たに建設する |
| 賃貸型 | 行政が民間賃貸住宅を借り上げ、被災者に提供する |
| 民間住宅紹介・自費入居 | 被災者が住宅を探し、契約する。民間団体等による相談・紹介を含む |
| 応急修理 | 被災した住宅を修理し、継続居住を可能にする |
いずれも被災者の住まいを確保するための手段ですが、住宅の調達方法、制度上の条件、行政手続きは異なります。また、供給の実績を数える単位も、建設戸数、入居戸数、契約件数、修理件数などで異なります。
2-2 建設型では着工前の工程に注目する必要がある
建設型の住宅を供給するには、一般に用地の確保、建設決定、発注、施工などの工程があります。2020年7月豪雨の資料では、発災から着工までに7日から104日という幅が確認できました。一方、着工から完成までの期間は15〜76日でした。この結果を見ると、着工前に何が行われていたのかが重要な調査対象になると考えられます。しかし、今回確認できた工程表には、用地確保日、建設決定日、発注日などが十分に記録されていませんでした。そのため、着工前の時間が長くなった理由を、用地確保、行政手続き、その他の事情に分けて特定することはできません。建設型の供給に時間を要する理由を明らかにするには、工事期間だけでなく、その前段階の資料が必要です。
2-3 賃貸型や応急修理は早いのか
既存の住宅を利用する賃貸型では、新たな住宅の建設工事は不要です。しかし、物件探し、申請書類の確認、行政の審査、契約などの手続きが必要になります。応急修理についても、被害状況の確認や修理工事の発注などの工程があります。今回、こうした手続きの内容は確認できましたが、個々の被災世帯が申請してから実際に入居するまで、あるいは修理が完了するまでに何日かかったのかという資料は得られませんでした。したがって、建設型より賃貸型が早い、あるいは応急修理が最も早いといった判断はできません。
2-4 費用についても比較条件をそろえる必要がある
費用についても同様です。確認できた資料には、制度上の支給上限、自治体の年度決算、仮設住宅の供与延長に伴う年度費用など、異なる種類の金額が含まれています。例えば、2016年度の菊陽町では、被災住宅の応急修理215件に対し、約1億2,331万円が支出されました。これを単純に件数で割ると、1件当たり約57.4万円となります。ただし、この金額は菊陽町の当該年度の決算に基づく算術平均であり、熊本県全体の平均費用でも、住宅の全修理費でもありません。建設型の建設・維持管理・撤去・土地復旧までの費用と、賃貸型の家賃等の累計費用を、同じ条件で比較できる資料は今回得られませんでした。制度上の上限額だけを比較して、どの方式が安いと結論づけることも適切ではありません。
仮説2の結論:住宅確保の方式によって、必要な手続きや費用の構成が異なることは確認できました。
しかし、それぞれの方式が住宅供給に必要な時間や費用にどの程度影響しているかは、現段階では明らかではありません。特に、用地確保、行政手続き、実際の入居までの待機期間について、追加の調査が必要です。
第3章 仮設住宅への入居後、生活再建はどう進むのか
3-1 仮設住宅の利用が長期間続く場合がある
仮設住宅の建設が完了しても、それによって被災者の生活再建が完了するわけではありません。被災者は、その後、元の住宅を修理する、新たな住宅を建設・購入する、別の住宅に転居するなど、それぞれの事情に応じた生活再建を進めることになります。過去の災害では、仮設住宅の利用が長期間続いた事例もあります。雲仙普賢岳噴火災害では、1991年5月29日の災害救助法適用から、1995年12月25日の仮設住宅最終退去まで、約4年7か月が経過しています。また、2020年7月豪雨についても、約5年後の2025年7月31日時点で、建設型応急住宅7戸に入居が続いていました。これらは、住宅の一時的な確保から恒久的な住まいの再建までに、長い時間を要する場合があることを示しています。
3-2 被災者はその後、どこへ移動するのか
仮設住宅などに入居した被災者が、その後どこに住むのかについても調査しました。考えられる経路には、元の住宅を修理して戻る、転居先に定住する、新たな住宅を購入・建設するなどがあります。しかし、今回の調査では、これらの経路を同じ基準で追跡した資料を十分に確認できませんでした。熊本市の2020年10月の調査では、住宅再建が必要な回答者967人のうち、87.8%が再建のめどが立っていると回答しています。ただし、これは住宅再建が完了した人の割合ではありません。また、住宅の住み心地に対する満足度を示すものでもありません。被災者がどこに移動し、何年かけて恒久的な住宅を確保したのかを把握するには、継続的な調査が必要です。
3-3 仮設住宅の用地は、その後どうなるのか
建設型応急住宅では、住宅の建設に必要な土地の確保も重要な問題です。過去の災害では、公園、グラウンド、民有農地などが仮設住宅の用地として使用されてきました。しかし、仮設住宅の最終退去日と、建物の撤去日、土地の原状回復日、所有者への返還日は、必ずしも同じではありません。今回の調査では、団地ごとの用地の占有開始日や返還日を確認できませんでした。このため、仮設住宅の整備によって、それぞれの土地が実際に何年間使用されたのか、その全体像は明らかになっていません。
仮説3の結論:仮設住宅の利用が数年に及んだ事例は確認できました。
一方、恒久住宅への移行期間、住宅移動、用地の返還期間、居住満足度などについては、資料が不足しています。仮設住宅への入居後の生活再建を総合的に評価するためには、さらに調査が必要です。
まとめ 今回の分析で分かったことと今後の展望
第一弾では、九州7県において今後どの程度の応急仮設住宅が必要になる可能性があるのか、その規模を検討しました。今回の第二弾では、その住宅を実際に供給するまでの時間と過程、さらに入居後の生活再建に焦点を当てました。今回の分析から、3つのことが分かりました。
第一に、仮設住宅の最初の入居開始と全戸完成には、数か月に及ぶ時間差が存在した事例があります。
第二に、住宅確保には複数の方式があり、それぞれの制度や手続きが異なります。しかし、方式ごとの所要時間や費用を同一条件で比較できる資料は不足しています。
第三に、仮設住宅への入居後も、住宅再建、転居、用地の返還など、長期間にわたる過程が続く場合があります。
一方、今回の調査では、21項目の未解明事項が残りました。特に、用地確保や行政手続きに要した日数、住宅供給の総費用、被災世帯の転居と住宅再建の経過、土地の返還期間などについて、追加調査が必要です。また、今回確認できた資料は熊本県の事例に大きく偏っています。宮崎県や鹿児島県などについては、住宅供給の工程や費用を示す資料が十分に得られていません。したがって、今回の結果を九州7県全体に一般化することには限界があります。
今後の展望
第一弾と第二弾を通じて、住宅の必要戸数と実際の供給過程の両面から、災害後の住まいの確保について検討してきました。今後は、今回不足していた資料の確認を進めるとともに、既存施設の利用可能性や災害時のエネルギー確保などについても、別の研究課題として取り上げたいと考えています。これらの検証結果を積み重ねたうえで、最終的には、九州という広域ブロックで災害後の住宅確保を考える場合、どのような選択肢があり、それぞれにどのような利点や課題があるのかを総合的に検討していく予定です。今回の第二弾は、そのための実態把握という位置づけです。
主な参考資料
第一弾
第二弾の主な調査資料
- UR都市機構「熊本地震からの復興まちづくり」インタビュー
- 熊本県「令和2年7月豪雨による応急仮設住宅の建設進捗状況」
- 菊陽町「平成28年度主要な施策の成果等に関する説明書」
- 中央防災会議「雲仙普賢岳噴火報告書 第4章」
- 熊本市「熊本地震からの住まいの再建に関する被災者アンケート調査」
- 熊本県「令和2年7月豪雨 応急仮設住宅等の入居状況」
※本記事は2026年10月時点で確認できた公開資料に基づく調査結果です。